<はじめに>

 通過タイム計測装置は人体から発する赤外線を検知するので、疾走中の前後に振られる手足からの赤外線信号などを拾った場合、精度がかなり悪くなるのではないかとの懸念の声が聞かれます。 計測精度を検証してみたので結果を報告します。

 

1 計測方法

(1)使用したセンサ、増幅回路

  回路図を図1に示します。 2つの赤外線検知エレメントが出力を相殺する方向に接続されているタイプの焦電センサRE210を使用しました。 レンズはAE-01を使用、回路の入力電圧は5Vとしました。 

図1 回路図

 

 図2は、人体がフレネルレンズの前方を横切る際、センサ窓への赤外線照射域が変化して電気出力が変化する様子の一例を示しています。照射域が窓を通過し初める時にはプラス側に出力(②)され、その後0(③)となり、さらにマイナス側に振れ(④)、照射域が窓から離れると0に戻ります(⑤)。

この⑤の後(照射域通過後)に回路の特性により、反動出力がプラス側に出てきます。2段目出力を見るとかなり大きな反動出力であることがわかります。

 

 通過し初めの出力特性は、センサによってプラス側に振れたり、マイナス側に振れたり等、特性が揃っていません。マイナスに振れた場合はセンサの向きを180°回転させるとプラス側に振れるようになります。

 今回、人体がフレネルレンズ前方を横切る際のセンサ出力が最初プラス側に振れるようセンサの向きを揃えました。

 

図2 焦電センサモジュール形状と出力特性説明図

 

(2)計測システム

  走者はレーン幅の中央だけではなく、レーンの右側や左側も走ります。走行位置を変えた場合のデータを取得するため、レーンの中心、中心から±30cmの位置の走行データを取得することとしました。

図3 想定した走者の走行位置とセンサ位置の関係

 

 計測システム全体を図4に示します。 センサの水平位置からの角度は、45°、60°の2種、また、センサの走者からの横方向距離は、325(625-300)mm、625mm、925(625+300)mmの3種に設置し、1回の計測で計6通りのデータを取得するようにしました。

 通過時間の基準(基準時間)は、胸位置高さとその上下の合計3か所に走者の右から左側に赤外線LED信号を通し、走者によりLED信号が遮断されるタイミングとしました。手の動きや、顔の出し方で遮断されることもあるので、3か所のうち最も遅く信号が遮断されるタイミングを基準時間としました。

 データはデータロガーで取得後、パソコンに吸い上げました。データロガーの入力電圧は0~2.5V(製品の初期設定値そのまま)、計測間隔は1msとしましした。

図4 計測システム

 

 

 計測装置設置状況を図5に示します。

 LED受信機のセンサは、テレビ等で使われているリモコン用のセンサを使用しており、このセンサは信号を送り続けると出力がされなくなる特性を持っています。通過する時だけ定格出力にするよう補助センサを走行手前に設置しています。

図5 計測装置設置状況

 

 

 (3)走行条件

走行状況を図6に示します。走者は身長約170㎝の2名、通過速度は約6~7m/s、 2018.3.10夕方に実施(当日天気は晴、最低気温4℃最高気温12℃)しました。

計測風景

 

  2 計測結果

 17回分のデータを取得しました。

(1)基準時間

  図7はLEDによる通過時の出力計測例です。 定格出力期間中に立下り信号が1.5Vを下回った時間をLED遮断時間としました。 首位置(a1)、胸位置(s2)、腹位置(a3)の3か所のうち最も遅い遮断時間を基準時間とし、下図の計測例では胸位置(a2)の立下りのタイミングが基準時間となります。 

 

図7 LEDによる通過時の時間計測例(計測NO.71)

 

(2)焦電センサ回路出力例

図8,9は焦電センサ回路からの出力例です。それぞれの計測でLED信号から基準時間読み取り、その時間を0sとして整理してます。

センサ回路からの出力は増幅器2段目の出力なのでマイナス側がカットされます。また、データロガーの入力設定を0~2.5Vとしたので2.5V以上の部分はカットされています。

 計測NO.76の例(図8)は、単純な照射域が通過する際の

 ① 初回の通過開始時の出力と

 ② 通過後の反動の出力

の2つの出力が現れています。 通過時に手足からの信号は、胴体の信号に隠れた状況にあったものと思われます。

図8 焦電センサ出力例(計測NO.76)

 

計測NO.71の例(図9)では、b4、b5、b1で大きな出力が3回みられ、胴体からの赤外線に加え、前後に振っている手足などから赤外線の入力をとらえている状況を表しています。

図9 焦電センサ出力例(計測NO.79)

 

3 精度分析

 赤外線センサ出力データの処理方法を変えて通過時間のばらつき具合を分析しました。 

 

 (1)最初の出力の立上がりのタイミングを通過時間とした場合

 図10は各計測場所(b1~b6)について、最初の立上がり時間(0.5Vを超えた時間)が基準時間からずれている頻度(10ms幅)を集計したものです。

 赤外線センサの最初の立上がりを通過時間とすると、基準時間に対してやや早めの時間を示す傾向にあります。

図10 基準時間からずれている頻度(最初の出力立上がり時間)

 

 図11は、角度45°(b1,3,5)の頻度を合計、角度60°(b2,4,6)の頻度を合計したものです。 ばらつき幅は80ms程度であり、また、基準時間よりも平均で30ms程度早めの時間を示す傾向にあることがわかります。

図11 頻度を合計(最初の出力立上がり時間)

 

 

(2) 最初の立上がりと最後の立上がり信号で処理した場合

 最初の立上がり信号と最後の立上がり信号が、通過し始めと通過終了を代表するデータで、その2つの時間の平均よりは最初の立ち上がりに近い時間に通過のタイミングが存在すると考え、以下の計算式で処理を行いました。

  通過時間=最初の立上がり時間+(最後の立上がり時間-最初の立上がり時間)÷4 

その結果を下に示します。

 

図12 基準時間からずれている頻度(最初と最後の立上がりで処理)

 

 また、角度45°(b1,3,5)の頻度の合計、角度60°(b2,4,6)の頻度の合計をグラフ化したものを図13に示します。 ばらつき幅はほぼ基準位置を中心に、±30ms程度となりました。

図13 頻度を合計(最初と最後の立上がりで処理)

 

<おわりに>

 焦電センサ角度45°、60°の2種類、走行位置はレーン幅の右側、中央、左側の3種類で通過時の出力データを取得し評価した結果、簡単なデータ処理で基準時間と通過時間の差はほぼ±30msにおさまるとの結果が得られました。

 今回の試験条件と異なる外気温、身長、速度、走り方の個性等により、基準時間と通過時間の差の状況が変化してくると考えられますので、適時データを取得していきたいと思います。

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【補足事項】

製作への反映

 3(2)項の結果を踏まえ、プログラムには次の時間補正式を記述してます。

通過時間=最初の立ち上がり信号時間+(最後の立ち上がり信号時間ー最初の立ち上がり信号時間)÷4

 補正値は、検知装置に記号で表示されます。

 

センサ回路への入力電圧による影響

 検証時のセンサ回路電圧が5Vに対し、新型は新型_回路図で記している通り3.3Vとしました。その差による影響について、入力電圧3Vで取得した2回分のデータで確認しました。

 アンプ(LM356)の特性から出力は低め(3V入力に対して1.8V程度が出力上限値)である以外、信号立ち上がりの部分は、応答遅れもないデータとなってます。

 

 頻度のデータも、3(2)項のデータの範囲内に分布していました。

 これより入力電圧を3.3Vとしても、誤差に大きな変化はなさそうです。